第2回「声良鶏の謡」
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声良鶏謡合大会
 類稀なる長鳴性が注目され、南部の時代より盛んに飼育された声良鶏。かつては自慢の愛鶏を持ち寄って隣り近所、あるいは隣村まで出かけてと、鳴き比べをして楽しんだという。現在となっては、そういったおおらかな風景を見ることはできないが、声良鶏の長鳴きを競い合うという伝統は残されている。それが、春から秋にかけて、秋田や青森各地で行われる「声良鶏謡合(うたあわせ)大会」である。

 今回はこうした謡合大会の中でも最も規模が大きい「全日本声良鶏謡合大会」を取材することになった。時は去る5月26日。場所は、声良鶏の発祥の地とされる鹿角市花輪。いってみれば声良鶏の聖地である。

 当日、鹿角市に到着すると早速会場となっている花輪のアメニティーパークの中をのぞいてみた。建物は体育館のようなところで、その中央に2m弱ほどの脚立のようなものが3本立ち、それぞれの頂きには声良鶏が背筋を伸ばしている。そしてその周囲には椅子が配され、座っている人々の眼差しは一心に声良鶏の動向に注がれていた。場内は静まりかえり、並々ならぬ 緊張感が漂っている。そしてときおり聞こえるのは、会場のあちこちから届けられる地響きのような鶏鳴である。

 実はこれが謡合大会の競技スタイルである。会場に設けられた脚立のようなものは、“鳴き台”と呼ばれ、いってみれば声良鶏のステージである。参加者が愛鶏を鳴き台に乗せた瞬間から競技が始まる。持ち時間は7分。その時間の中で、鶏たちは謡声を披露するわけだが、1度だけでは不十分。合計3度の謡を披露できなければ失格となる。ちなみこれまで、“声良鶏が鳴く”と記述してきたが、愛鶏家たちに言わせると、声良鶏は“鳴く”のではなく“謡う”のだという。だからこその「謡合大会」なのだ。



 競技についてさらに説明すると、謡だけが審査の基準になるのではない。容姿も重要なポイントとなる。しかし、どれほど容姿が優れていても持ち時間の中で謡えなければ失格となる。やはり、声良鶏は謡って初めて価値が認められるのである。  謡の審査内容は実に難解である。声良鶏の謡とは「出し」「付け」「張り」「落とし」「引き」の五音律となっている。そのひとつひとつの音律をどれほどの長さで、どのように謡うのかが審査のポイントである。長ければ良いというのではない。声の質も声良鶏らしく低く幅があり、重厚な響きである必要がある。一番よくないのは途中で乱れてしまうこと。それだけで大きな減点となってしまう。

 こういった部分を複数の審査員で審査し、フェアな結果 を出すために、最高と最低の得点結果を除いた平均点が審査結果 となる。と、審査の内容を言葉で説明することはできても、実際にはどの部分までは「出し」であり、どこからが「付け」なのかまるで検討がつかない。素人としては参加者の満足そうな顔を見て、なるほどこれは良く謡えたのだなと判断するしかないのである。

審査員の方々。
真剣な面もちに謡声と容姿を審査する。